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東京高等裁判所 昭和50年(ラ)756号 決定

抗告人(原審相手方)

松本重克

抗告人(原審参加人)

森好子

右両名代理人

中山雄介

相手方(原審申立人)

浦和英二

右代理人

横山唯志

主文

一、原決定を取消す。

二、本件増改築許可の申立を却下する。

理由

本件抗告の趣旨は、主文一、二項同旨、抗告の理由は、別紙のとおりである。

ところで、本件土地賃貸借契約に増改築制限の特約のないことは、当事者間に争いがない。そして土地の通常の利用上相当とすべき増改築につき当事者間に協議が調わないときに、裁判所が、借地法八条の二第二項により借地権者の申立によつてその増改築についての土地所有者又は賃貸人の承諾に代わる許可を与えることができるのは、増改築を制限する旨の借地条件が存在する場合又はその存否、範囲について争いのある場合に限るものと解すべきである。けだし、増改築を制限するような特約がないことが当事者間に争いがなく、特約の不存在が明らかなときは、借地権者としては、借地契約に定められた用法に違反しない限り、自由に増改築をすることができるはずである。尤もその増改築が近隣の日照権を侵害することその他を理由に差し止められたり制限されたりすることはあり得ないことではない。だからといつて、近隣に居住する目的土地所有者又は賃貸人が増改築の結果日照権が侵害されることその他を原因として借地権者の増改築に予め反対の意思を表明していることを理由として、その紛争を解決するために、増改築制限の特約がないことが明らかな場合にも増改築許可の申立をすることが許されるものと解することは適当ではない。そのような紛争の解決にまで借地非訟手続により裁判所が立ち入り、賃貸人の承諾に代る裁判をし、付随処分まですることは、裁判所が本来持つている司法裁判所としての権限を逸脱するものであり、特に借地法が認めているとは到底解せられないからである。

そうだとすれば、増改築制限の特約がないことが当事者間に争いがないのに、本件増改築許可の申立を容れてした原決定は不当であるから、借地法一四条ノ三、非訟事件手続法二五条、民事訴訟法四一四条により同法三八六条を準用してこれを取消し、本件増改築許可の申立を却下することとして、主文のとおり決定する。

(岡松行雄 木村輝武 中西武夫)

抗告の理由〈省略〉

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